大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和28年(う)1238号 判決

被告人 坂野三郎

〔抄 録〕

弁護人論旨第二に対して。

原判決が事実認定の証拠として被告人の当公廷における供述を掲げていること及び記録を精査すれば右被告人の供述が原審第一回公判調書中被告事件に対する陳述として「起訴状記載の公訴事実はその通り相違ありません」という被告人の供述記載部分にあたるものと認められることは所論の通りであるが、証拠調に先立つて為される被告事件に対する右被告人の陳述が証拠とすることを得ないものということはできない。刑訴法第二九一条刑訴規則第一九七条第一項が、「裁判長は起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨の外、陳述をすることもできる旨及び陳述をすれば自己に不利益な証拠ともなり又利益な証拠ともなるべき旨を告げた上、被告人に対し被告事件について陳述をする機会を与えなければならない」と規定していることから見ても、被告人の右冒頭の陳述が事実認定の証拠となることは勿論であり、刑訴法第二九二条は単に前記冒頭手続を終つた後証拠調を行うべきことを明らかにしているのみであつて、所論の様に被告事件に対する被告人の冒頭の陳述を証拠とすることを禁ずる趣旨のものではない。従つて原判決が前記被告人の起訴状記載の公訴事実はその通り相違ない旨の冒頭の陳述を証拠に掲げたことは何等違法ではなく、原判決には所論採証法則違背の廉は存しない。所論は独自の解釈に従つて原判決を非議するもので本件には当らない。論旨は理由がない。

註 本件と異趣旨ではないが、被告人の冒頭陳述を犯罪事実認定の証拠とするために必要な要件を定めたと思われる昭和二五・五・二六第十一刑判決(高等裁判所判例集第三巻第二号刑二〇一頁)を参照すべきである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!